弊社(株式会社ネディア)は、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の国際規格であるISO/IEC 27001の認証を取得しています。
この経験を活かし、ISMSの概要と認証取得のメリット・デメリットについて詳しく解説します。
ISMSとは
ISMSは、Information Security Management Systemの略称で、日本語では情報セキュリティマネジメントシステムと呼ばれます。
組織の情報セキュリティリスクを適切に管理するための包括的な仕組みです。
情報セキュリティの3要素
ISMSでは、以下の3つの要素を重視しています。
- 機密性(Confidentiality):権限のない個人やプロセスによる情報アクセスを制限
- 完全性(Integrity):情報の正確性と完全性を維持
- 可用性(Availability):許可された個人が必要な時に情報にアクセスできる状態を確保
これらの要素をバランスよく維持・改善することが、ISMSの主要な目的の一つとなります。
ISMS認証(ISO/IEC 27001)について
ISO/IEC 27001は、ISMSの国際規格です。この規格は、組織がISMSを確立し、実施し、維持し、継続的に改善するための要求事項を提供しています。
ISMSとISO/IEC 27001は混同されがちですが、「 ISO/IEC 27001 」は「 ISMS を作り、運用するためのルールブック」のような役割をし、「そのルールに則した ISMS が作られ、運用できていることの証明」になるのが ISMS 認証です。
最新の規格改訂
2022年10月、ISO/IEC 27001の最新版である「ISO/IEC 27001:2022」が発表されました。(弊社は2024年11月に移行監査を受け新規格に対応)
この改訂では、クラウドの普及やプライバシー保護の重要性の高まりなど、最新の技術動向や社会情勢の変化が反映されています。
ISMS認証取得のメリット
ISMS認証を取得することで、組織は以下のようなメリットを得ることができます。
- 信頼性と信用の向上:情報セキュリティへの取り組みを示すことで、顧客や取引先からの信頼を高められます。
- セキュリティレベルの向上:組織全体のセキュリティ意識が高まり、実際の対策レベルも向上します。
- ビジネス機会の拡大:ISMS認証が取引条件となっている案件への参加が可能になります。特に、官公庁や自治体の入札要件をクリアできる可能性が高まります。
- リスク管理の強化:体系的なリスク評価と対策により、情報セキュリティリスクを効果的に管理できます。
- コンプライアンスの強化:法令や規制への適合性を確保しやすくなります。
ISMS認証取得のデメリット
一方で、ISMS認証の取得には以下のようなデメリットも存在します。
- コストの増大:認証取得には審査費用やコンサルティング費用など、相当なコストがかかります。審査費用は50万~150万円、コンサルティング費用は50万~200万円程度が相場です。また、認証取得後も毎年の維持審査費用が必要です。
- 業務負荷の増大:認証取得のための準備や文書作成、定期的な監査対応など、従業員の業務負担が増加します。
- 時間がかかる:認証取得までには最短でも3~4か月、準備期間を含めると半年~1年程度の時間がかかります。
- 継続的な取り組みが必要:認証取得後も、年1回以上の維持審査や3年ごとの再認証審査があり、継続的な業務が発生します。
- ISMSの厳格な管理体制により、組織の運営が形式的になりやすく、業務の柔軟性が損なわれる可能性があります。
ISMS認証取得の流れ
ISMS認証を取得するためには、以下のような手順を踏む必要があります。
1.適用範囲の決定:認証を取得する組織や部門の範囲を明確にします。
2.情報セキュリティポリシーの策定:組織の情報セキュリティに関する基本方針を定めます。
3.リスクアセスメントの実施:情報資産に対するリスクを特定し、評価します。
4.リスク対策の実施:特定されたリスクに対する適切な対策を講じます。
5.ISMS文書の作成:必要な文書類(方針、手順書など)を整備します。
6.内部監査の実施:ISMSの運用状況を内部で確認します。
7.マネジメントレビュー:経営層によるISMSの有効性の確認と改善指示を行います。
8.認証審査:認証機関による審査を受け、認証を取得します。
ISMS運用のポイント
ISMSを効果的に運用するためには、以下のポイントに注意する必要があります。
- PDCAサイクルの徹底:Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)のサイクルを継続的に回すことで、ISMSの有効性を維持・向上させます。
- 経営層のコミットメント:トップマネジメントが情報セキュリティの重要性を理解し、積極的に関与することが不可欠です。
- 従業員教育の実施:全従業員に対して、定期的な情報セキュリティ教育を行い、意識向上を図ります。
- 技術的対策と運用的対策のバランス:最新のセキュリティ技術の導入だけでなく、適切な運用ルールの策定と遵守も重要です。
- インシデント対応体制の整備:セキュリティインシデントが発生した際の対応手順を明確にし、定期的な訓練を実施します。
ISMS文書の管理
ISMS認証の取得と維持には、適切な文書管理が不可欠です。主な文書には以下のようなものがあります。
- 基本方針:情報セキュリティ方針、適用宣言書など
- 管理規程:情報セキュリティ運営管理規程、内部監査管理規程など
- 管理手順:具体的な作業手順や注意点を示したマニュアルなど
- 様式/記録:日々の運用記録など
これらの文書を体系的に管理し、必要に応じて更新することが重要です。
ISMS認証取得企業の特徴
ISMS認証を取得している企業には、以下のような特徴があります。
- 業種:IT系企業が約6割を占めており、特に受注ソフトウェア業とシステムインテグレーション業が多い。
- 取引形態:BtoBの取引を行う企業や自治体との取引を行う企業が多い。
- 企業規模:大手企業だけでなく中小企業の取得も多い。
- 認証取得数の推移:2002年の約140社から2024年には約7,600社となり、約20年で50倍以上に増加している。
参考文献
ISMS 適合性評価制度に関する調査報告書
https://isms.jp/enquete/2023/report2023.pdf
ISMS認証取得組織検索
https://isms.jp/lst/ind/
最新のISMS動向
情報セキュリティを取り巻く環境は日々変化しており、ISMSも進化を続けています。最新の動向としては以下のようなものがあります。
- クラウドセキュリティの重要性増大:クラウドサービスの普及に伴い、クラウド環境特有のセキュリティリスクへの対応が求められています。
- AI・IoTへの対応:人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)の普及により、新たなセキュリティリスクが生まれています。
- リモートワーク環境のセキュリティ:新型コロナウイルス感染症の影響でリモートワークが急速に普及し、それに伴う新たなセキュリティ課題への対応が求められています。
- サプライチェーンセキュリティの強化:取引先や委託先を含めたサプライチェーン全体でのセキュリティ確保の重要性が高まっています。
- プライバシー保護との連携:EU一般データ保護規則(GDPR)など、プライバシー保護に関する規制が強化される中、ISMSとプライバシー保護の取り組みを統合的に進める動きが見られます。
ISMSとPマークの違い
ISMSとよく比較されるのが、プライバシーマーク(Pマーク)制度です。両者の主な違いは以下の通りです。
- 対象範囲:ISMSは組織の情報資産全般を対象とするのに対し、Pマークは個人情報の保護に特化しています。
- 国際性:ISMSは国際規格(ISO/IEC 27001)に基づいているため、グローバルに通用しますが、Pマークは日本国内の制度です。
- 要求事項の厳格さ:一般的に、ISMSの方がPマークよりも要求事項が厳格で、より高度な情報セキュリティ管理体制が求められます。
おわりに
ISMSは、組織の情報セキュリティを体系的に管理するための有効なツールです。認証取得にはある程度の労力とコストがかかりますが、得られるメリットは大きいと言えるでしょう。
情報セキュリティリスクが高まる現代のビジネス環境において、ISMSの導入は組織の競争力強化と持続的な成長に貢献します。
また弊社のISMS認証取得の経験から、重要なのは認証取得自体が目的化してしまわないことです。組織の実態に即した実効性のある情報セキュリティマネジメントシステムを構築し、継続的に改善していくことが本質的に重要です。
経営層のリーダーシップのもと、全従業員が情報セキュリティの重要性を理解し、日々の業務の中で実践していくことが、真の情報セキュリティ文化の醸成につながると考えます。
情報セキュリティを取り巻く環境は日々変化しています。組織は常に最新の脅威動向や技術トレンドに注目し、必要に応じてISMSを見直し、改善していく必要があります。
このような継続的な取り組みを通じて、組織は顧客や社会からの信頼を獲得し、持続可能な成長を実現することができるはずです。